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土の中の銀河
第1回
おいしいカブ?
Galaxy in the Soil
「え、これ、カブ?」
そう思ったのを今でも覚えています。
そのカブは驚くほどみずみずしく、口当たりが良く、後味に嫌な苦みやえぐみがない。
野菜を食べているというより、果物をかじっているような感覚。
葉っぱまでさわやかで、新種のレタスのようでした。
私はそれまで、カブとは少しえぐみと苦みのある野菜だと思っていました。しかし、そのカブは違いました。
作っていたのは、ある新規就農の農家さんです。
その方は代々農業を営んできたわけではありません。若いころに日本全国を旅していたのですが、道中に土づくりに関心を持ち、「農業こそ天職だ!」と感じられたそうで、一念発起し、農業者大学校や研修で農業を学ばれました。
だからこそ、彼には農業の「常識」がなかった。
有機栽培だから正しい。
慣行栽培だから間違い。
そういった考え方ではなく、良いと言われることを素直に試し、自分の畑を観察しながら土づくりを続けていました。
当時の私は、その畑の土を見てもすぐに特別なものだとは分かりませんでした。
黒い土だから良いわけではありません。
柔らかい土だから良いわけでもありません。
実際、耕うん直後の畑はどこでも柔らかく見えますし、黒ぼく土なら黒く見えます。
また、売れている野菜だから土が良いとも限りません。
多くのブランド産地では、施肥や農薬、防除、温度管理などの技術によって高品質な野菜を安定して生産しています。それは素晴らしい技術です。しかし、そのことと土壌の生物性は必ずしも一致しません。
私は長年、多くの畑を見てきましたが、売れている野菜と土壌生物性との単純な相関を見つけることはできませんでした。
しかし、このカブだけは違いました。
そこで土を分析してみました。
結果、土の中では多様で活発な微生物がいることがわかりました。
後になって分かったことですが、この農家さんの野菜が特別においしかったのは、特定の農法のおかげではありませんでした。
土を観察し続けたこと。
先入観を持たなかったこと。
そして、土の中で何が起きているのかを知ろうとしたことです。
私たちは普段、土を単なる植物の土台として見ています。
しかし実際の土の中には、無数の生き物が暮らす世界があります。
それぞれが関わり合いながら、生き、増え、食べ、そして消えていく。
土の中は決して静かな場所ではありません。
多くの生命がひしめき合い、絶えず変化し続けている。
まるで銀河のように。
私たちは、その世界を「土の中の銀河」と呼んでいます。
この連載では、そんな土の中の銀河について、実際の事例をもとに考えていきたいと思います。
次回は、「良い堆肥とは何だろう?」についてお話しします。